はじめに
日本ホームナースセンターでは、2023年より医療的ケア児に対する支援を行っています。
学校の登下校時に保護者の代理で付き添う支援からスタートし、いまでは様々な自治体からご依頼をいただき、特別支援学校ではなく通常の学校に通うお子様の学校内生活のサポート、放課後児童クラブでの見守り、宿泊行事の夜間対応など、様々な場面での支援を続けています。
しかし、自治体との契約の仕組みにより、支援の継続が難しくなることがあり、課題として感じる場面もあります。
特に、1年ごとの入札制度によって、支援の質が安定しにくくなる問題が浮き彫りになっています。
私たちは、より良い支援の在り方について考え、お子様、保護者様や自治体と連携しながら、改善を進めていきたいと考えています。
今回は、医療的ケア児支援の現状と課題、そして今後の展望について詳しくお伝えします。
医療的ケア児支援の現状と重要性
<医療的ケア児とは>
医療的ケア児とは、人工呼吸器や経管栄養、たんの吸引などの医療的なケアを日常的に必要とする子どもたちを指します。
近年、医療技術の進歩により、これまでなら長期間入院が必要だった子どもたちが家庭や地域で生活することが可能になりました。
その結果、特別支援学校だけでなく、一般の学校に通うケースも増加しています。
しかし、医療的ケアが必要な子どもたちが学校生活を送るためには、専門的な支援が欠かせません。
これまでは、保護者が登下校や学校生活の全てに付き添わなければならないことが多く、仕事を続けることが難しくなったり、一人の時間を持てなかったりするなど、大きな負担を強いられていました。
2021年に医療的ケア児支援法が施行されてからは、看護師などの専門職が学校でのケアを担えるようになり、少しずつ保護者の負担が軽減されてきました。
また、お子様も外とのかかわりを持つ機会が増え、社会的な学びにつながる環境が整いつつあります。
日本ホームナースセンターの取り組み
私たちは、各自治体と契約を結び、医療的ケア児が安全かつ快適に学校生活を送れるよう、以下のような支援を提供しています。
1. 学校の登下校時の付き添い
看護師が保護者の代わりに付き添い、安全に登校・下校できるようサポートします。
以前は保護者が毎日の送迎を担っており、 看護師の支援が入ることで、保護者の負担が軽減され、お子様も安心して登下校できる環境が整っています。
2. 学校生活内の付き添い
授業中や休み時間、給食の時間など、お子様が安心して学校生活を送れるよう医療的ケアを提供します。
たとえば、
・授業中に痰の吸引が必要な場合のサポート
・食事の際に経管栄養や食事介助が必要な場合のサポート
・体調の急変時にすぐ対応できるように見守る
このように、医療的ケアを必要とするお子様が学びの機会を逃さないよう支援しています。
3. 放課後児童クラブでの支援
学校が終わった後、保護者の仕事が終わるまでの間、放課後児童クラブで安心して過ごせるようサポートします。
これまでは、医療的ケアが必要なために放課後児童クラブに参加できず、放課後の居場所が限られているお子様もいました。
しかし、看護師が支援することで、
・友達と一緒に遊ぶ機会が増え、社会的な学びの場が広がる
・保護者も安心して仕事を続けることができる
といった大きなメリットがあります。
4. 特別支援学校の宿泊行事の夜間対応
宿泊行事に参加することは、お子様にとって貴重な経験ですが、医療的ケアを必要とするお子様が参加するには大きなハードルがありました。
学校の看護師が24時間対応することは難しく、これまでは参加を諦めざるを得なかったケースも少なくありません。
そこで、日本ホームナースセンターの看護師が夜間のサポートを提供することで、宿泊行事の参加が可能になりました。
支援内容は以下の通りです。
・夕食の食事介助・経管栄養の対応
・入浴後のバイタルサインチェック
・ 寝る前のケア(たんの吸引、体位交換など)
・夜間の緊急時対応(体調変化があった場合の対応)
・ 翌朝の準備・朝食の食事介助・経管栄養の対応
自治体契約の課題【1年ごとの入札制度】
多くの自治体では、支援を提供する企業を1年ごとの入札で決定する仕組みを昔から採用しています。
公平性を保つための仕組みですが、一方で、支援を受けるお子様や保護者にとって大きな負担を生む要因にもなっています。
1. 信頼関係が毎年リセットされる
1年間の支援を通じて、私たちはお子様やご家族と信頼関係を築いていきます。
お子様の性格や特性、必要なケアの細かい部分を理解し、それに合わせた対応をすることが重要です。
しかし、1年ごとに支援会社が変更されると、せっかく築いた信頼関係がリセットされてしまいます。
特に、医療的ケア児の場合、新しい看護師や支援者との関係を一から築くことは、精神的な負担が大きくなります。
毎年違う支援者と接することで、お子様が不安を感じたり、保護者がその都度対応方法を説明し直さなければならなかったりするなど、負担が増大してしまいます。
2. 支援の引き継ぎが困難
新しい企業が支援を担当する場合、これまでの支援内容やお子様の状況を正しく引き継ぐことが求められます。
しかし、短期間で詳細な情報を伝えることは容易ではありません。
その結果、支援の質が一時的に低下するリスクが生じます。
また、看護師の派遣を行う企業側にとっても、毎年入札に参加し、新しく自治体との契約を結び直す手間が発生するため、安定した支援体制を維持しにくくなるという問題があります。
支援者の入れ替わりが激しくなることで、支援の継続性や専門性の向上が妨げられる恐れもあります。
3.保護者の負担が増加する
企業が変わるたびに、保護者が新しい支援者に対してお子様のケア方法を説明し、関係を築き直す必要があります。
例えば、
・ お子様がどのタイミングでたんの吸引が必要なのか
・ 食事の際に注意するべきポイント
・ 緊急時の対応方法やお子様の特性
これらを毎年新しい支援者に伝え続けることは、保護者にとって大きな負担となります。
特に、共働き家庭では仕事と育児の両立に支障をきたすこともあり、支援が継続しないことが生活に直接影響を及ぼすケースも少なくありません。
継続的な支援が実現した事例
こうした課題がある中で、昨年から契約を結んでいたある自治体から、私たちの1年間の取り組みが高く評価されました。
その結果、お子様が卒業するまで随意契約(特定の事業者と契約を継続する仕組み)として、支援を継続してほしいとの依頼をいただきました。
これは、これまで何度も学校や自治体に足を運び、1年ごとの入札制度によるリスクについて伝えてきた結果だと考えています。
自治体も、支援の質の重要性を理解し、より良い形での支援継続を求めたことが、今回の決定につながりました。
この取り組みにより、
・ お子様が安心して学校生活を送ることができる
・ 保護者が毎年支援者に説明し直す負担が軽減される
・ 支援の引き継ぎミスがなくなり、安定したケアが提供される
といったメリットが生まれました。
こうした契約の在り方が全国に広がれば、より多くの医療的ケア児とその家族が安心して生活できる環境が整うのではないかと考えています。
今後の課題と契約の在り方
1. 継続性を重視した契約の導入
1年ごとの入札方式ではなく、一定の評価基準を満たした事業者には継続契約を認める制度があれば、支援の質を維持しやすくなると考えています。
特に、医療的ケア児のように長期的な支援が必要なケースでは、このような仕組みが適しています。
2. お子様とご家族の負担軽減
契約の変更によって、お子様やご家族が毎年新しい支援者と関係を築かねばならない現状は、大きなストレスになっています。
安心して日々を過ごせるよう、支援が長期的に継続される体制の構築が求められます。
3. 自治体との協力強化
関係各所が支援の重要性を理解し、柔軟な契約の仕組みを検討できるよう、私たちも積極的に提案していきます。
支援の現場で何が必要かを伝え、より良い制度の実現を目指します。
おわりに
日本ホームナースセンターは、これからもお子様一人ひとりやご家族に寄り添いながら、安心して過ごせる環境づくりに努めてまいります。
医療的ケア児の支援は、お子様の成長を支え、ご家族の負担を軽減するだけでなく、社会全体が共に支え合う仕組みをつくる大切な取り組みです。
支援を継続的に提供できる体制が整えば、お子様がより充実した学校生活を送り、ご家族も安心して日常を過ごせるようになります。
そのために、私たちは自治体や学校、関係機関と連携を強化し、より良い支援のあり方を模索しながら取り組んでまいります。
今後も、医療的ケア児とそのご家族が安心して暮らせる社会の実現を目指し、一つひとつの支援を大切にしながら、尽力してまいります。