「医療的ケア児」という言葉を聞いたとき、皆さんはどのような児童を思い浮かべますか。
近年、医療の進歩によって助かる命が増える一方で、日常的に医療的なサポートを必要とする子どもたちが増えています。
彼らは「医療的ケア児」または「医ケア児」と呼ばれ、次のように定義されています。
医療的ケア児とは
医学の進歩を背景として、NICU等に長期入院した後、引き続き人工呼吸器や胃ろう等を使用し、たんの吸引や経管栄養などの医療的ケアが日常的に必要な児童のこと。
厚生労働省の調査によると、日本の医療的ケア児は2万人を超え、この15年間で約2倍に増加しています。
医療的ケア児は今後も増えていくことが予想されており、適切なサポートをしていくことが求められるようになっています。
医療的ケア児にも幅がある
「医療的ケア児」と一口に言っても、その状態や支援の必要度には幅があります。
たとえば、歩行や着替えなど日常生活動作(ADL)は自分でできるものの、食事時に経管栄養が必要な児童もいれば、車いすでの移動や常時の見守りが必要な児童もいます。
つまり、「医療的ケア児」は一律ではなく、グラデーションのある存在です。
そのため支援の方法も、児童ごとの特性や家庭環境に合わせた柔軟な対応が求められます。
法整備の動き:「医療的ケア児支援法」の成立
こうした現状を踏まえ、2021年には「医療的ケア児とその家族に対する支援に関する法律」(いわゆる医療的ケア児支援法)が施行されました。
この医療的ケア児支援法の目的は、「医療的ケア児の健やかな成長を図るとともに、その家族の離職の防止に資し、もって安心して子どもを生み、育てることができる社会の実現に寄与することを目的とする。(一部抜粋)」となっていて、法律の名称に「家族に対する支援」という言葉が入っている通り、子どもと家族を社会全体で支援しましょうという内容になっています。
主なポイントは以下の通りです。
医療的ケア児と家族が地域で安心して暮らせる体制を整備すること
教育現場における看護師等の配置・支援体制を促進すること
行政が中心となって支援の窓口を明確にすること
しかし、制度が整い始めたとはいえ、実際の現場では「支援できること自体が知られていない」という課題が残っています。
医療的ケア児の認知度
ある統計では「医療的ケア児という言葉を聞いたことがある」と答えた人は約30%にとどまっています。
テレビ番組や新聞などで特集される機会も増え、少しずつ関心は高まっていますが、まだ「自分とは関係のない世界の話」と感じる方が多いのが現状です。
特に、医療や福祉の現場に関わっていない一般の方にとっては、
「医療的ケア児」という存在自体がイメージしづらく、何が必要なのか、どんな支援が行われているのかを知らないケースがほとんどです。
支援はまだ発展途上 ― 現場から見える課題
法整備が進み始めたとはいえ、実際の支援はまだ発展途上です。
自治体によって支援体制に差があり、看護師の確保や学校との連携体制づくりなど、課題は少なくありません。
そのような中、私たちの会社では、医療的ケア児と家族の生活を支えるため、
次のような取り組みを行っています
【通学支援】
特別支援学校への通学には通常スクールバスが使用されます。
しかし移動中何らかの医療的ケアが必要な児童はバスに乗ることはできず、保護者様が毎日自家用車で送迎せざるを得ず、仕事や家庭生活に大きな負担がかかっているのが現実です。
そこで、弊社では看護師と福祉タクシーを組み合わせた通学支援サービスを行っています。
看護師が児童のご自宅まで伺い、医療的ケアを行いながら安全に学校まで送り届ける仕組みです。
保護者が安心して子どもを任せられる環境をつくることで、家庭全体の生活の安定にもつながっています。
【学校内支援】
「できれば特別支援学校ではなく、地域の学校で友達と学ばせたい」
そんな思いを持つ保護者も多くいらっしゃいます。
しかし、通常級に医療的ケア児が通う場合、
医療的ケアは誰が行うのか
体調の変化をどう見守るのか
緊急時の対応はどうするのか
といった課題が生じます。
先生方が他の児童の対応をしながら、これらすべてを担うのは現実的ではありません。
そのため弊社では、該当児童の登校中は看護師が学校に常駐し、児童にマンツーマンで付き添う支援を行っています。
医療的ケアは看護師が責任を持って実施するため、先生方は教育活動に専念でき、児童も安心して学校生活を送ることができます。
現在、東京都内の公立小学校を中心にこの取り組みが広がっています。
【放課後支援(学童クラブでのサポート)】
また、放課後の居場所づくりとして、医療的ケア児を受け入れる学童クラブへの看護師手配も行っています。
「放課後の時間も安心して過ごせる場所をつくること」――それもまた、家族にとって大切な支援の一つです。
「知られていない」ことが最大の壁
こうした支援は、実は法律で「最大限支援を行うこと」が明記されています。
それにもかかわらず、現場の医療従事者や教育関係者の中でも「そのような制度やサービスがある」と認識していない方が多いのが実情です。
筆者自身も、もともとは医療現場で働いていましたが、この仕事に携わるまではこうした支援の存在を知りませんでした。
最近、現役の医療従事者や学校関係者の友人と話す機会がありましたが、同様に「そんな仕組みがあるんですね」と驚かれる方がほとんどです。
つまり、制度やサービスが整っていても、それが**「知られていない」こと**が最大の課題なのです。
まずは「知る」ことから始めよう
法整備は進みつつありますが、医療的ケア児とその家族が安心して暮らすためには、
地域社会全体がその存在を理解し、支援の輪に加わることが不可欠です。
「医療的ケア児とその家族に対する支援施策」が施行されている今、
私たち一人ひとりが「どんな子どもたちがいて、どんな支援ができるのか」を知ることが第一歩です。
どこに相談すべきなのか
この医療的ケア児の置かれている状況に対して、行政では「医療的ケア児コーディネーター」の設置を各自治体に進めています。
医療的ケア児コーディネーターとは
医療的ケア児が必要とする保健、医療、福祉、教育等の多分野にまたがる支援の利用を調整し、総合的かつ包括的な支援の提供につなげるとともに、医療的ケア児に対する支援のための地域づくりを推進する役割を担う。
医療的ケア児の相談窓口として、各自治体がコーディネーターと医療的ケア児支援センターの設置を行っております。
まずは第一窓口として各行政の医療的ケア児コーディネーターへ相談してみてください!
この記事を通して伝えたいこと
この記事を書いた理由は、まさにその「第一歩」を広げたいという思いからです。
医療的ケア児は特別な存在ではなく、私たちの社会の中に確かにいる子どもたちです。
そして、彼らを支えるサービスや人が存在しているという事実を、もっと多くの人に知ってもらいたいのです。
日本全体で医療的ケア児の数が増えている今、
「支援があること」そして「支援を受けられること」が広く認知されることで、
本当に必要としている家庭にサービスが届くようになる――
それが、私たちが目指す未来の姿です。
<参考>
医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律|厚生労働省
※医療的ケア児の「児」は、児童をさしていますが、この児童は法律によってその定義は異なり例えば児童福祉法、児童手当法、児童虐待防止法では18歳未満を児童と定義していますが、母子及び父子並びに寡婦福祉法では20歳未満と定義しています。この医療的ケア児の場合は、18歳以上の高校生等を含み児童と定義しています。