医療技術の進歩により、日常的に医療的ケアを必要とする「医療的ケア児」が家庭や地域で生活する機会が増えています。
しかし、その背景には、保護者が抱える多大な負担や社会全体での支援体制の課題が多く存在しているのが現実です。
今回は、当社が本社をおく町田市を例に、具体的な取り組みを紹介しながら、医療的ケア児を支えるために必要な環境整備についてご紹介します。
医療的ケア児とその保護者が直面する現実
医療的ケア児とは、人工呼吸器の管理や痰の吸引、経管栄養といった医療行為を日常的に必要とする子どもたちを指します。
こうしたケアが必要になることで、保護者は家庭内で医療的ケアを担う負担が増え、さらに仕事や社会参加が制限されることも少なくありません。
また、周囲の理解が十分でない場合、孤立感を抱くこともあります。
町田市では、こうした家庭の負担を軽減し、医療的ケア児が安心して暮らせる環境を整えるため、行政主体でさまざまな取り組みを進めています。
医療的ケア児とその保護者が直面する現実
1.市としての取り組み
町田市では、「町田市福祉のまちづくり総合推進条例」において、一定規模以上の施設に対するバリアフリー整備の基準を定め、
公共施設及び民間施設ともに、子どもから大人、高齢者、障がい者など全ての人が住みやすい、ユニバーサルデザインやバリアフリーに配慮した「ユニバーサル」なまちづくりに率先して取り組み、利用しやすい施設の整備を目指しています。
ソフト面だけでなく、様々な人が利用しやすいまちづくり・設備の整備を行っています。
2. 訪問看護サービスの充実
ソフト面ではどうでしょうか。町田市では、在宅医療を必要とする人々が、不足なく利用できるよう、訪問看護サービスが充実しています。
実際に市内に約70箇所の訪問看護ステーションがあり、医療的ケアが必要な子どもたちの家庭を定期的に訪問してケアを行っています。
特に夜間や休日の訪問看護体制を強化し、24時間対応が可能なステーションを増やすことで、保護者が夜間に十分な休息を取れる環境を目指しています。(厚生労働省資料より)
また具体例として、「町田市訪問看護ステーションネットワーク」があります。このネットワークでは、看護師同士の情報共有を行い、
ケアの質を高める取り組みが進められています。また、地域の医療機関との連携を強化することで、緊急時にも迅速に対応できる仕組みを構築しています。
3. 保育園や学校での医療的ケア児受け入れ体制の整備
町田市では、医療的ケア児が通える保育園や学校を増やす取り組みを行っています。
具体的には、看護師や支援員を常駐させる施設を拡充し、保護者が安心して子どもを預けられる環境を整備しています。
たとえば、市内にある8つの「医療的ケア児対応型保育園」では、専門知識を持つ看護師が常駐し、痰の吸引や経管栄養といった医療的ケアを日中に対応しています。
この取り組みにより、保護者が働く時間を確保できるだけでなく、子どもが他の子どもたちと一緒に過ごす機会を得られるようになりました。
また、市内の公立小学校では、医療的ケアが必要な児童に対して支援員を配置する制度を導入。支援員は子ども一人ひとりのケアに対応し、教育の場での安心感を提供しています。
4. 保護者へのピアサポート活動
医療的ケア児を育てる保護者が孤立しないよう、町田市はピアサポート活動を支援しています。
具体的には、同じ境遇の保護者が集まる「医療的ケア児保護者のつどい」を定期的に開催し、経験や情報を共有する場を提供しています。
さらに、専門家による相談会や講演会も行われており、保護者が最新の医療情報や支援制度について知ることができる仕組みが整っています。こうした取り組みは、保護者の心理的負担を軽減するだけでなく、地域社会でのつながりを生む貴重な場となっています。
4. 町田市医療的ケア児支援センターの設立
町田市では、医療的ケア児とその家族を支援するための専用窓口「町田市医療的ケア児支援センター」を設置しています。
このセンターでは、保護者からの相談を受け付け、適切なサービスの紹介や行政手続きのサポートを行っています。
また、専門的な知識を有した「医療的ケア児コーディネーター」を配置し、保健、医療、福祉、子育て、教育等の必要なサービスを総合的に調整し、医療的ケア児とその家族に対し、サービスを紹介するとともに、関係機関につなぐ役割を担っています。
このような窓口があることで、先述の保護者へのピアサポート活動にも繋がり、医療的ケア児を抱える家庭も安心して相談できる環境が整っています。
今後の課題
町田市では、市を挙げて様々な人が暮らしやすい環境の整備を進めていますが、まだ解決すべき課題も残されています。
特に、訪問看護師や学校常駐看護師、支援員の人材不足は深刻な問題であり、人材確保には時間を要します。また、医療的ケア児を受け入れる保育園や学校の数も、増加する需要に対して十分ではありません。
おわりに
医療的ケア児とその家族が安心して暮らせる社会を実現するためには、行政の支援だけでなく、地域社会全体の理解と協力が欠かせません。
町田市の具体的な取り組みは、他の自治体にも参考となるモデルケースです。医療的ケア児が笑顔で生活できる社会を目指し、引き続き地域全体での取り組みを進めていくことが求められます。