医療的ケア児を通常の学校で受け入れるには

医療的ケア児とは

医学の進歩を背景として、NICU(新生児特定集中治療室)等に長期入院した後、
退院後も人工呼吸器や胃ろう等を使用し、たんの吸引や経管栄養などの医療的ケアが日常的に必要な児童のことを指します。

文部科学省の調査によると、2023年5月時点で特別支援学校に8,565人、通常の小・中・高等学校に2,199人の医療的ケア児が在籍しています。
通常の学校に通学する2,199人の医療的ケア児のうち、登下校時のみの付き添いが46.3%、学校生活の付き添いが19.4%、全体の66%にあたる 1,451人の児童の保護者が毎日付き添いをしています。小学校、中学校へ進学しても、保護者の手を離れられない現状があります。
そのため、医療的ケア児のいるご家庭の母親の多くは仕事を辞め、24時間365日お子様を見守り、ケアをする。目を離せば命に関わるお子様もいるため、家族との家事分担や、夜も交代で休息・睡眠を取らざるを得ないといいます。

■保護者様の思いを聞いて

初めて医療的ケア児への看護師配置のご相談をいただいたとき、社内にて対応事例がなかったため、個人的に「医療的ケア児とは」の初歩的な部分から調べて見ました。
先述の通り、多くの保護者様はお子様が常にケアが必要なため目が離せず、仕事を辞め社会との関わりが薄くなってしまったり、就学前の医ケア児が日常的に利用できるサービス(選び場等)が充実していないため、相談相手が多くなく、より社会から孤立していると感じたり、塞ぎ込んでしまう保護者様も多い、という記事を目にしました。
個人的に「看護師を配置する」ことでお子様、保護者様の負担を少しでも軽減でき、お子様の成長のなかで相談相手にもなれるような、そんな支援ができたらと感じました。
日本ホームナースセンターとしても、お困りのお子様・保護者様に寄り添い、微力ながら医療的ケア児の生活支援の援助のサポートをしていきたいと考えております。

学校への看護師配置のお話を進めるなかで、あるお母様とお話しさせていただきました。その中でも特に印象に残っている言葉があります。
「彼女(お子様)には通常の学校に通い、友達を作り、様々な刺激を受けてほしい。勉強も含め可能な限り教育の機会を与えてあげたいし、少しでも可能性を伸ばしていければと思っています。成長するにつれて、今までに起きなかったような大変なことや悩みが出てくるのはわかっています。それでも、教育委員会や学校、看護師のサポートを受けながら、一緒に彼女の成長を見守ってほしいと思っています。
彼女自身、いまでは看護師さん(前委託の看護師)をとっても信頼していて、要望を伝えるときにたまに口調が強かったり、言葉が悪くなってしまうこともあるのですが(笑)それも成長の一貫として、だめなことはだめと叱っていただいたりもしていて。母親としてそんな面もとても助かっているし、嬉しいんです」
お母様は笑顔でそうお話ししてくださいました。
先述の記事や様々なサイト、厚生労働省・文部科学省の記事を目にし、医療的ケア児の保護者は大変だろうなと漠然とイメージしていましたが、お話を伺ったお母様はとても明るく、悲観的には見えませんでした。日常的な大変さの印象が先行していた私は、お母様の表情、お話を伺ってとても恥ずかしくなりました。
この思いに至るまで、きっと私には想像もできないほど、大変という言葉一つで片付けられないような苦労があったと思います。しかし、お子様の成長を楽しみにされ、できることが増えていくお子様を見守っていくお母様の姿を拝見し、看護師のサポートを必要としているお母様の力に少しでもなれたらと思い、私自身の考えを改めるきっかけとなりました。

また、「看護師を手配する」とひとことでいっても、ご利用者のお体の状況やご希望によって、全く異なるサービスになります。当社では、日本イベントナースセンター(スポーツ大会や屋外イベント、展示会等に救護所を設け看護師を配置、ファーストエイド・一次救命処置を対応)、日本ツアーナースセンター(団体や個人のご旅行や移動に付き添う看護師を手配)も運営しております。日本ホームナースセンターにいただくご相談・依頼では、家族背景や関係各所とのやり取り、取り決めなど可能な限り把握し、求められるケアや児に合う人材を手配しています。
ご家族様によってお困りごとやお悩みは異なり、ひとつとして同じものははありません。そのため、看護師を手配・配置するだけでなく、ご家族様の悩み・お困りごとに寄り添い、悩みやご希望をしっかり受け止め、一緒にお子様、保護者様にとって最善のサポートを組み立てていくことが大切だと思っており、我々が一番大切にしている部分でもあります。

■特別支援学校ではなく通常の学校に通わせたい

医療的ケア児の多くは保育園、幼稚園の受け入れ先が少なく、自宅で過ごす児が多いと言われています。
「医療的ケア児」と呼ばれる子どもたちでもさまざまな子どもがおり、ひとまとめにはできません。身体に障がいがあり医療的ケアが重度の子どもであっても、知的障がいがない子も多くいます。そのため義務教育に上がることで、いままで交流の少なかった同学年の子たちと交流の場を設けたい、お友達を作ってほしい、コミュニケーション面・勉強面、校外学習を経て児のできることを伸ばせるようなサポートがしたい。また立地面として特別支援学校が遠く通学バスに乗車もできないため、学区内の小・中学校に通わせたい。そう考える保護者は多くいらっしゃいます。
医ケア法が施行され、多くのお子様が通常の学校に通える可能性が広がるなと感じました。ですがそれと同時に、お子様に付き添う看護師の確保の難しさを感じているのも正直なところです。通常の学校への就学を希望するすべてのお子様、保護者が希望を叶えられるよう、と祈る一方で、看護師配置のサポートが国や自治体から受けられる制度を知らない家族は、そのサポートを受けられないのではないか。知らないために常に苦しさを感じていらっしゃる保護者様が多くいらっしゃるのではないか。より一層の制度の拡充と一家族ごとの対応の難しさ、もどかしさも感じています。

■通常の学校に通う難しさ

通常の学校に通うことに限定すると、就学前から多くの相談・打ち合わせが必要になります。
・教育委員会や学校との受け入れの相談・交渉
・登校から下校までの過ごし方の確認
・支援員(介助員)・サポートスタッフとの役割分担
・緊急時の対応マニュアル作成 等
事前に決定するべき事項に加え、日々突発的に起こる課題の解決が欠かせません。
また児の進級と共に、遠足などの校外学習、宿泊体験学習や修学旅行など、学校内のみの生活だけでは無くなっていきます。精神的・身体的な児の成長に合わせ、ケア・サポート内容の変更や調整が必要になります。
就学前、就学後も保護者側の負担が大きいことがわかります。

受け入れ側の学校としても多くの課題が挙げられます。
特別支援学校では、児の障がいや発達に応じた必要な教育を受けることができ、教員も専門知識を有していたり学校看護師が配置されていたりと、ソフト面が充実していることに加え、車椅子やバギーでの学校生活や避難訓練、緊急時の避難を想定し基本1階建てとされているなど、ハード面でも配慮されています。
通常の学校では、設備(ハード面)としてより遅れを取っているように思います。
・昇降口や校庭にでる通路など、至る所に段差がある
・エレベーターがない
・お手洗いがコンパクトなため、車椅子・バギーで入れない
⇒全介助が必要な児が排泄できる環境がない、リフト等介護用具が揃っていない
・教室などのドア幅が車椅子で通るには十分ではない
・緊急時の移動手段が階段しかなく、児を抱えての避難訓練は大変困難
上記のようなハード面の改善については、2021年9月施行の「医療的ケア児支援法」にて国から補助が出るようになり、改善が進められていますが整備が追い付かず整っていないのが現状です。

ソフト面ではどうでしょうか。
看護師などのケア人員配置や教員の知識向上も急務ですが、
同時に一緒に学校生活を送るクラスメイトへ理解を深め、コミュニケーションを図ることも不可欠となります。保護者が願う学校での友達作り、思い出作りにはクラスメイトとの関わりが必須になります。医療的ケア児の状態についてのみんなで理解する時間を設けたり、互いの違いを理解し、協力しあえるクラスにできるよう、担任、教員が見守る必要があります。また医療的ケア児が使用しているデバイス・車椅子・バギーについての説明も必要です。看護師がすること・生徒がしてはいけないことなどのルールも必要になります。
当センターとしては、看護師目線での確認・アドバイスやマニュアル作成も行っています。
そしてお子様も保護者も安心して学校生活が送れるよう、国や自治体への助言・提案、保護者へのヒアリング等も丁寧に対応させていただいています。

■「日本ホームナースセンター」として目指していきたいこと

・学校生活に看護師さんを配置してほしいが問合せ先がわからない
・訪問看護ステーションに断られたが、自費であれば対応が可能か
・修学旅行の付き添いはできるか、旅行先での医療行為は対応できるのか
当社では上記のようなご相談を保護者、自治体・教育委員会、学校、介護タクシーなど様々が方面からご連絡をいただきます。
医ケア法が施行され、世の中が医療的ケア児の生活支援に目を向け始めていますが、まだまだサポートが足りなく、十分ではないと感じることもあります。
本人、ご家族様にとってより安心して暮らせる、切れ目のない医療が提供されることを祈っているとともに、微力ながらサポートを必要とされている方々に寄り添い、支援を行っていきます。私自身、いつか特別支援学校・通常の学校問わず、医療的ケア児の通園や就学での保護者同伴が必須ではなくなる、そんな日を一緒に手助けできたらと思っています。
日本ホームナースセンターに連絡すればなにか情報が得られる。そう思っていただけるよう、事務局一同知識・対応力向上を目指していきます。
国、自治体も医ケア法のサービス構築・提供について手探りの状態ではありますが、当社も一緒にサポートしていきたいと考えております。

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