医療的ケア児が保護者なしで修学旅行に参加した取り組みについて

今回は、医療的ケアが必要なお子様が、より自由に学校行事に参加できるよう取り組んだ新たな事例についてご紹介します。

他の記事でも触れているように、医療的ケアが必要なお子様が学校行事に参加する際には、遠足やプール、学習発表会、避難訓練など、それぞれの活動ごとにさまざまな課題が生じます。
また、お子様の体調や身体の状態によっても、その課題は異なります。

先日、保護者の代わりに看護師が付き添うことで、24時間医療的ケアが必要なお子様が保護者なしで初めて修学旅行に参加できたという、画期的な事例が実現しました。
この事例は、医療的ケア児とそのご家族にとって大きな希望となるだけでなく、学校や地域社会が連携して支援体制を整えた成果を示すものでもあります。
修学旅行の実施にあたっては、多職種の連携や事前準備の徹底、予期せぬ事態に備えた対策など、さまざまな工夫が求められました。こうした取り組みを通して、医療的ケア児が学校行事に参加する上での可能性と課題が改めて浮き彫りになりました。
今回の成功を通じて得られた成果や課題を、より多くの方々に知っていただき、同じような取り組みが全国で広がることを願っています。

背景と課題

医療的ケアが必要なお子様でもそうでなくても、修学旅行や体験教室など宿泊を伴う学校行事は、お子様にとってかけがえのない特別なイベントです。
仲間とともに過ごし、非日常的な経験を通して成長するこれらの機会は、学校生活の中でも特に大きな思い出となります。
しかし、医療的ケアが必要なお子様がこうした宿泊行事に参加するためには、多くの制約や課題が伴います。特に、医療的ケア児の多くは夜間を含む24時間体制のケアが必要であるため、学校関係者や養護教員だけで対応することは非常に困難です。
そのため、これまでは保護者が付き添う形での参加が一般的でした。
しかし、保護者が付き添うことで解決できることもある一方で、以下のような課題が指摘されています。

〇保護者側の負担
仕事や家庭の事情により、長期間の同行が困難な場合が多い。
宿泊行事の準備から長時間の付き添いによる身体的・精神的負担が大きく、特に日常的にケアを行っている保護者にとってはさらに負担が増します。

〇子どもにとっての経験の制限
保護者が一緒にいることで「友達と過ごす」という体験が得られず、家族旅行と変わらない印象になってしまう。
お子様自身の自立心や社会性を育む機会を奪ってしまう可能性もある。

〇心理的な壁
他の子どもたちの中で、自分だけ保護者がいることで、子ども自身が疎外感を感じてしまう可能性。

これらの課題から、多くのご家庭では修学旅行への参加を諦めざるを得ないケースが少なくありませんでした。
しかし、修学旅行はお子様にとって学びと成長の場であり、その特別な機会を医療的ケアが必要な子どもたちが享受できないのは、大きな課題と言えます。
こうした状況の中、ある自治体から
『特別支援学校に通う医療的ケアが必要な子どもたちにも、他の子どもたちと同じように修学旅行を楽しんでもらいたい。保護者の代わりに看護師が夜間のケアを担当することで、保護者の負担を軽減し、子どもたちの自由な体験を広げたい』というご相談をいただきました。

これまでにも、通常の学校行事において、体調不良者やけが人が出た際のファーストエイドを目的として看護師を配置するケースは何度もありましたが、医療的ケア児の宿泊行事で、保護者の代わりに看護師が夜間ケアを行う形で同行するのは、今回が初めての試みでした。
この取り組みは、その自治体としても初めての試みであったため、成功に向けて入念な事前準備が行いました。

学校と綿密な打ち合わせと計画

まず、対象のお子様が通われている特別支援学校へ伺い、自治体、学校の担任教諭、養護教員、弊社事務局および看護師長を交えて詳細な打ち合わせを行いました。
この場では、主治医の指示書を基に、お子様の疾患や必要な医療ケア、服薬状況を詳細に確認しました。
また、修学旅行の具体的な行程をもとに、看護師がどのタイミングで、どこに合流し、どのようにケアを提供するかについて細かく計画を立てました。
当初、看護師は夜間のみのケアを予定していましたが、担任教諭や養護教員は初日の朝から同行し、翌日の日中も同行するため、少しでも負担を減らすために、最終的には看護師が夕食時から宿泊地に合流し、夕食介助、就寝準備、夜間ケア、翌朝の対応を行う具体的な体制を整えました。

ご家族との顔合わせ

学校関係者との話し合いの中で、日頃より学校内で実施している日中のケアについては把握できているが、「ご自宅ではどのように過ごされているか」「夜間のケアのポイント」などを保護者様から直接伺うべきだという結論に至り、日を改めて実際に修学旅行に同行する看護師とともに保護者様やお子様と顔合わせを行いました。
この場で、指示書からは読み取れないような情報や、ご家族ならではの「急に痰が詰まった時はこの体勢にすると楽になる」「この時間帯は少し眠りが浅くなるので気をつけて」など具体的なアドバイス、実践的なポイントを共有いただき、大変有益な時間となりました。
また、保護者の方々からも「当日どのような看護師さんに看てもらえるのか少し気になっていたので、直接お話しする機会を設けてもらえて安心しました」とのお声をいただきました。

修学旅行当日の様子

季節の変わり目はより体調を崩しやすく、修学旅行直前に体調が変化する可能性もあり
場合によっては急遽キャンセルとなる可能性も考慮し、柔軟な対応を準備して臨みましたが、幸いにも当日は元気に参加されました。

旅行中は予定通り行程が進み、看護師が夕食時から合流し、夕食後の経管栄養や服薬のサポート、夜間の吸引対応、翌朝のケアまでスムーズに行うことができました。その後も大きなトラブルなく、無事に帰宅されました。

初めての成果と今後への期待

この成功は、医療的ケア児が保護者なしで修学旅行に参加できる可能性を広げる、大きな一歩となりました。保護者の方々からは、「やっと普通の修学旅行を経験できた」「家族がいなくても、友達と過ごした時間が子どもの成長に繋がった」と、とても嬉しいお言葉をいただきました。
一方で、いくつかの課題も見えてきました。
例えば、自治体や学校の予算面での制約、看護師の配置数や人材確保の問題など、今後も継続的に取り組んでいくべきテーマが残っています。それでも、この成功事例を基に、他の自治体や学校でも同様のサポート体制を広げていくことができると期待しています。

今後の展望

今回の取り組みを通じて、医療的ケア児が保護者なしでも安心して宿泊行事に参加できる可能性が広がりました。この実績をもとに、他の学校や自治体でも同様のサポート体制を広げていけることを願っています。
医療的ケアが必要なお子様のご家族の中には、「もし行き先で体調が急変したら?」「普段と違う環境で何かあったら?」といった不安を抱えている方が多くいらっしゃいます。
そのため、外出や旅行を前向きに検討することが難しく、友達と遊ぶ機会も限られてしまっている現状もあります。

一方で、お子様の成長を考えると、たくさんの体験や周りからの刺激を受けることで、さまざまな変化が生まれます。
できなかったことができるようになる、興味のなかったことに興味を持つ、そして喜怒哀楽の感情を表現できるようになるなど、新たな体験を通じて学びや発見がたくさんあります。言葉で伝えることが難しいお子様も、表情や態度で自分の想いをしっかりと表現できるようになります。
修学旅行は単なる思い出作りにとどまらず、新たな発見や学び、成長の場でもあることを改めて実感しました。今後も自治体や関係機関と連携し、より多くの医療的ケア児が安心して社会参加できる環境づくりを目指していきます。
医療的ケアが必要なお子様が「自分もみんなと一緒に行ける!」と安心して参加し、他の子どもたちと同じように特別な思い出を作れる未来を目指して、これからも自治体や学校と連携していきます。

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